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「2015年度 流通BMS普及推進セミナー in 東北
~さし迫る!レガシーEDIからの完全脱却~」開催

 流通BMS協議会は、11月17日(火)に青森のねぶたの家 ワ・ラッセで、18日(水)に盛岡のマリオスで「2015年度流通BMS普及推進セミナー ~さし迫る!レガシーEDIからの完全脱却~」を開催した。
 流通BMS協議会では、2015年度の普及推進のテーマとして、「地方企業」と「中小企業」への拡大を掲げており、今までの6大都市中心ではなく、地方都市での開催となった。
 セミナーではNTT東日本 山内氏より、アナログ通信網のIP網への移行に伴うINSネットデータ通信の終了についてご説明いただき、インターネット利用への切り替えを呼びかけた。その後、協議会事務局より流通BMSの導入状況と小売業の導入事例をご紹介した。
 また、情報志向型卸売業研究会(卸研)の座長である、フジモトHD(株) 松本氏より、卸研の取り組みについてのご紹介と、自社事例についてご講演頂き、2020年度を見据え早期の対応を呼びかけた。
 以下、セミナーでの一部講師の講演要旨を紹介する。

2015年度 流通BMS普及推進セミナー プログラム

時間 内容
14:00~14:45 「INSネット(ISDN)データ通信」終了に向けたIPへの移行について
NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門
ネットワークサービス担当 担当課長
山内 健雅 氏
14:50~15:35 必要なEDI対応と流通BMS導入事例および最新情報
流通BMS協議会 流通システム開発センター
ソリューションサービス本部
ソリューション第2部
事務局
15:50~16:20 卸全体への影響とピップの流通BMS対応事例
フジモトHD(株)
情報志向型卸売業研究会(通称:卸研)
情報システム室 室長 執行役員
座長
松本 寿一 氏

「INSネット(ISDN)データ通信」終了に向けたIPへの移行について

NTT東日本
ビジネス開発本部 第一部門
ネットワークサービス担当 担当課長
山内 健雅 氏

回線網の現状と未来

 通信技術はPCの発展と共に、ISDNからADSLになり、今は光が主流になった。クレジットカードの決済にタブレット端末を利用したり、POSレジにフレッツ光を利用したりして業務を行っている企業も増えてきている。また、固定電話から携帯電話やIP電話への移行が急速に進んでいる。世界的に見ても、アナログ交換機の需要は小さくなっており、技術的に保守が難しくなってきている。そのため、NTT内部の回線網をルータを利用したIP網に一本化していく予定だ。ただし、すべての回線が光になるのではなく、各利用者からNTTまでの間は一部メタル回線も残る可能性がある。

INSネット「ディジタル通信モード」の終了について

 IP化しルータを利用すると、今まで交換機で可能だったことが一部できなくなる。INSネット「ディジタル通信モード」は2020年度後半を目途に終了する予定だ。NTT東西のISDNサービスは2種類あり、比較的小規模な企業向けの「INSネット64(ライト)」と大企業向けの「INSネット1500」である。
 INSネット「ディジタル通信モード」はPOSレジ、CAT端末(クレジットカード端末)、警備端末、G4FAX(複合機のようなFAX)で使われている可能性があるため、早期の切り替えをお願いしたい。現在、NTT東西の法人ユーザ様には順次周知を始めているが、利用しているかどうか利用者自身で確認する方法があるのでご説明したい。
 まず、ISDNというサービスはNTT東西のみが提供しているわけでなく、他社でも提供されているケースがあるため、まずはNTT東西のサービスを利用しているかどうかを確認する。次に、実際に機器がつながっているか、使っているかどうかを調べてほしい。

INSネット利用有無の確認する2つの方法

 「ディジタル通信モード」を利用しているかどうかの確認方法は、繋いでいる機器の仕様を見る、または、利用していれば料金が発生しているので、請求書で確認する方法がある。
 機器で確認する方法だが、モジュラージャックから線を繋ぎ、DSUから直接端末に接続しているケースや、DSUの下にTAを接続しているケース、DSUにTAを内蔵しているケースがある。DSUからRJ45BRIケーブルで直接機器につないでいるケースはディジタル通信モードを利用している可能性が高い。もうひとつの例として、DSU下のTAからUSBポートやRS232Cケーブルで端末につないでいるケースもある。利用している機器がどういう接続形態になっているかを確認すると、影響範囲がわかる。
 古い機器を見ただけでは断定が難しいため、取扱説明書に「INSネット64ディジタル通信モードを使ってください」と記載があるかどうかでも確認できる。メーカーやベンダーで設置されているケースは、設置者に問い合わせをしてほしい。
 請求書で確認する場合には、少しでも使っていれば「INS通信料」と請求書に記載される。しかし光回線などのバックアップとして利用していることがあり、トラブルが起こらなければ料金が発生せず請求書では確認できない。
 ISDNが普及し始めたのは15年前から20年前であるため、担当者が代わり通信環境が判らないケースもあると思うが、ISDNを導入したものの機器を繋いでいないケースもある。当然、使っていない回線で休止すればコスト削減効果もあるので、ぜひ確認してほしい。

早期対応のお願い

 NTT東西の周知の方針としては、企業には設備の更改タイミングがそれぞれあるため、その際に併せて検討できるように、早めに案内する準備をしている。
 2020年度末まで約5年が残されているが、システム更改となると様々な準備が必要となると思われるので、今のタイミングで検討いただきたい。世界的にも交換機の技術が陳腐化し維持していくのが難しい状況であるため、回線網移行は避けられない。
 サービス移行のイメージとして、スーパーの店頭の小売店舗などで利用いただいているINS回線は、ぜひ光回線へ移行して頂きたいが、その場合使える端末が変わる可能性もある。G4FAXは光回線では使えないので更改が必要である。
 光のメリットとして、従来まで非常に長かった通信時間が短縮され通信料金が減りコスト削減できるし、スピード感を持った受発注も出来るようになる。業務の効率化、高速化というのは流通業界では生命線になってくるし、流通業界以外にも金融等いろいろな企業に利用いただいている。こうした社会的な流れも含め、ぜひ早めに検討いただきたい。

卸全体への影響とピップの流通BMS対応事例

フジモトHD(株)
情報システム室 室長 執行役員
情報志向型卸売業研究会(通称:卸研) 座長
松本 寿一 氏

卸研と流通BMSについて

 卸研では毎年いくつかのテーマごとにグループを作り、研究を進めている。流通BMSについても2006年以降、毎年テーマの一つとしていた。
 INSネット「ディジタル通信モード」提供が終了し、JCA手順、全銀手順、全銀TCP/IPが使用できなくなる可能性が高いという非常に大きな課題が発生している。小売業、卸売業ともに通信手順を変更する必要がある。そのため、今年度の研究テーマとして、標準外の手順を抑制しつつ流通BMSへの切替を促進する手段について検討している。

卸研研究経過報告

 アナログ回線を利用した通信手順への影響については、まだ確実なことは言えないという段階だが、無くなるという前提で対応しないといけない。そのため、2020年度には移行が完了するように、情報の発信を進めている。
 より具体的な目的としては、

  • 小売業・卸売業双方の事務作業の効率化、業務品質・精度を向上させる
  • INSネット「ディジタル通信モード」提供終了にともなう影響について理解を深め危機感を流通業界で共有する
  • ITベンダーに対し、流通BMSへの移行を容易にし、標準化を推進するための提言を行う

という3つを主眼に置いて活動している。
 経過報告としては、INSネット「ディジタル通信モード」提供終了に伴い流通業界では莫大な対応作業が必要になる可能性があり提供終了直前に切替が集中すると対応が困難になるといった懸念事項を整理している。また、対応策として、簡易版説明資料を作成し、小売業・卸売業ともに内容を理解して危機感を共有しないといけないと考えている。
 また、流通BMS導入促進の方法は次のような案が検討されている

  • 流通BMS導入のメリットを記載した資料を作成
  • TA伝票をベースとし、必須項目+αに項目を絞った流通BMSのマッピング例を検討し、レガシーEDIから流通BMSへの移行を容易にする
  • POSベンダー、VAN会社へINSネット「ディジタル通信モード」提供終了についてヒアリングするとともに流通BMSへの導入を推進するように依頼を行う

 具体的には、日用品流通業界では主にJCA手順が使われておりメッセージはTA伝票が基となっているので、流通BMSに簡単に移行する助けになるような資料を作成しようとしている。また、中小の小売業は自社でシステムを構築できずPOSベンダーやVAN会社に依頼している企業も多い。そのようなPOSベンダーやVAN会社に対して流通BMSを推進するようお願いする活動をしようかと考えている。

INSネット「ディジタル通信モード」終了のインパクト

 小売業ではEDI以外にも警備端末、クレジット端末、G4FAXなどINS回線を利用している機器が多い。また、本部と物流センター間や、物流センターと卸売業やVAN会社との間の通信にも利用している。特に、VANを利用していたり、インターネット設備のない中小企業については大きく影響すると考えている。
 回線網の移行について、2015年度の現在、大企業を対象にIP網への移行依頼が本格的に開始されたが、これからどうなるか解らないというのが私も含めて多くの担当者の実情ではないか。問題を認識している企業は増えているが、まだ静観中という状況だと思われる。周知活動はこれから本格的に開始するということなので、2016年度には具体的な内容が社会的に広く公開され、一部の企業は具体的な切り替えの検討・実施を始めるだろう。いつごろになるかは判らないが、サービス終了日を明示することによってEDIシステムの切替が激増し、駆け込み対応に追われる企業が続出することを懸念している。

個別システムの問題点

 JCA手順は流通BMSやWeb-EDI等いろいろな手段に替わってきている。インターネット回線を利用することで、2020年問題に対応できるし、速度も格段に速くなり、コストも安くなる。
 しかし、卸の立場からすると、Web-EDIより流通BMS導入を歓迎したい。初期費用などの問題もあり小規模卸売業が対応できていないという問題はあるが、流通BMSの方が、データ内容の拡張性が高く、標準仕様を利用することは社会的な責任を果たすということにもなり、将来何か変更があっても即座に対応ができるというメリットがある。
 一方、Web-EDIは初期投資が低く取引の100% EDI化が可能になるというメリットはあるが、取引先に対して負担をかける。導入まで手間がかかるし、データ活用の拡張性が少ない。何より運用に負荷がかかるため、大手の取引先はWeb-EDIをお断りする場合があるし、今後は対応をしないという企業も出てくるのではないかと聞いている。
 さらに、具体的な話をすると、EDI開発コストは卸売業の固定費になる。標準化システムの開発コストは個別システムの開発コストより安くなる。卸はどちらの要請にも対応するが、個別システムが増えれば固定費も増える。低いコストで対応することは、卸売業だけにメリットがあるというわけではなく、流通業の全体最適としても重要だと考えている。
 開発コストについて、新規JCA手順を100とすると流通BMSは60~80になる。ノウハウが蓄積されたため通信だけであれば60ぐらいのコストで対応できる。80くらいまで幅があるのは、帳票やラベルは個別の対応もあるからだ。一方、Web-EDIになると、データ量が増え項目数も3~5倍になるので、開発工数はどうしても増えてしまう。Web-EDIを開発するならJCA手順の方がまだ開発コストは少ないというのが現場の意見である。

個別システム対応のトラブル例

 個別対応の問題点は他にもある。システム再構築の際に、JCA手順を利用している企業の対応で苦慮したことがあった。
 発注データとしては仕様書通り、複数納品日が来る。しかし、ASNデータを送った時にセンターでは1日分の納品データしか処理できないシステムになっていた。仕様書にも記載がなかったため、最終的にはプログラムから仕様の確認を行い複数納品日をどこかの日に集約するよう、データを加工した。このような個別対応があると、一度動き出せばとりあえずは問題がないが、将来システム再構築となった際に大きな問題となるという例だった。
 また、別の例として、Web-EDIで送受信対応をしたが新しいバージョンでは通信ができなくなり、急遽古いバージョンのサーバを用意した。個別対応のために別のコストがかかってしまった。
 標準仕様の利用は卸売業には当然メリットがあるが、小売業やメーカーにも還元できる。流通全体の最適化と考えればこのような個別対応は無くしていかないといけないと考えている。

早急に対応する必要がある

 日用品業界におけるEDI取引企業数は、1200社程度あるとカウントしている。そのうち、弊社のEDIの取引先企業数は500~600社。その中で、流通BMSに対応しているのが10%程度。まだ90%が残っている状況だ。
 流通BMSに移行する場合、協定書やマッピングシートの交換からテストを実施し、本番稼働までざっくり約1ヶ月かかるとすると、500社(=500ヶ月)の対応を5年で対応することになる。60ヶ月で割ると月に8.4企業となる。現時点から平準化しても月に9企業、つまり週に2企業ずつの対応が必要であり、かなり大変な状況といえる。仮にサービス終了間際の2019年度に切り替えが集中した場合には、物理的に対応が不可能になると予測しており、早くからの対応が必要である。

流通BMSの課題

 流通BMSにも課題はある。まず、未導入卸への対応が必要なため、小売業にとってはWeb-EDIとの2本立てが必要になる。また、様々な運用に対応できるよう幅を持たせているということもあるが、仕様としてかっちり決めていない。ガイドラインを参照していても捉え方によって独自の判断をしてしまうケースがあるためマッピングシート等の確認が必要である。さらに、電子証明書の取得や暗号化スイート等技術的な対応も必要で、IT企業に協力してもらう必要がある。

過去の導入事例

 最後に参考事例として、弊社の導入後1年間の実績では、仕様の解釈の問題での障害が多かった。しかし、テストの中でほとんど潰せたので本番運用にはほぼ影響なく導入できた。
 こうした経験を積んで、流通BMSを導入して4年目の今では、ほぼトラブルなしで導入できるという状況になっている。最初の1年は様々な小売企業に対応するということで障害はそれなりに発生するが、一度対応すれば安定稼働できるシステムである流通BMSの導入を推進していきたいと考えている。


セミナー会場風景:2015年11月18日 マリオス 18F