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報告・レポート

流通BMSセミナー in リテールテックジャパン2017
「流通BMSを基盤に取り組む、マツモトキヨシのIT戦略」

 3月9日のセミナー「流通システム標準化の最新動向」で、マツモトキヨシホールディングスより流通BMSの事例や同社のIT戦略についての紹介を行った。
 本セミナーは、毎年3月に開催されるリテールテック JAPAN の1企画として、毎年、流通システム開発センターが主催しており、その1セッションとして実施したものである。
 以下、セミナーの講演要旨を紹介する。


セミナー会場風景:2017年3月9日 東京ビッグサイト会議棟

テーマ・講師

テーマ 講師
流通BMSを基盤に取り組む、マツモトキヨシのIT戦略 株式会社マツモトキヨシホールディングス
執行役員 IT・ロジスティクス統括部長
平松 秀郷 氏

流通BMSへの取り組み

2012年に基幹システムの更新に合わせ流通BMSへの取組みを開始し、2013年に稼働した。
更に昨年は、流通BMS準拠のWeb-EDIの対応や、物流関連の対応も進めた。
レガシーEDIを早めに廃止するため2017年度中の完全移行を検討している。
EDIは流通BMSに一本化していくのが本筋である。小売が各社個別でEDIをやってしまうと乱立し、煩雑になり、ハイコストになるためである。製配販で利益の最大化を目指す必要がある。
流通BMSとすることで、通信機器モデムが不要になったり、発注の早期送信、出荷時間の前倒し、EDIの範囲拡大、伝票の削減などに加え、経理では支払時の買掛の照合が高精度にできるようになったり、メッセージの柔軟性が上がるなどの効果がある。
NTTの公衆電話回線網のマイグレーションも流通BMSに一本化していく理由の1つである。
2015年に業界団体の会合でNTT東日本に確認したところ、2025年までに完全移行するとのことだったが、2020年からの5年間はどこがつながっているかわからない状況と聞いている。そのため、2020年をエンドとして対応しないと、小売業は取引先と通信もできなくなってしまう。ただ、2020年にはオリンピックもあり、SE不足によるコスト増も想定される。2019年には消費税増税による軽減税率対応も予定されている。いろいろな負荷が集中してしまうことを回避するため、2017年度までに実施することとした。
中規模の取引先に対してのアプローチでは、初期費用や月額運用費が高いとの意見もあったため、IT企業と連携し費用を抑えたものを紹介するなど、なるべく早く切り替えてもらうよう毎月会議の席上でお願いし、拡大を図っている。流通BMS対応済みの取引先は、仕入構成比では98%まで達しているが、社数としてはまだ90%に満たない。
流通BMSのメリットを取引先に聞いたところ、通信時間・コスト削減、伝票コスト削減が大きなメリットと回答があった。流通BMSが難しいと回答した取引先は、取引規模に見合わない、導入コストに見合わない、流通BMSに詳しいスタッフがいない、手が回らないなどをあげていた。取引規模や導入コストが見合わないという部分に対しては、なるべく格安の製品・サービスを紹介し、2017年度中に対応すると約束をもらっている。人手不足の面についてはそういったところに強いシステムベンダーを紹介するなどのサポートを行っている。
ドラッグストア業界では、一般用医薬品等の流通BMS化は目途がたってきた。ただ、調剤分野はこれからである。個社でやっても限界があるため、流通システム開発センターにもお願いするなど、調剤の卸・メーカー、薬局もふくめて流通BMSで標準化をしてほしいとお願いしているところである。我々も協力しながら進めていきたい。
軽減税率には既に対応済みだが、取引先にも早く対応するようお願いしている。中小の取引先には流通BMSも対象になる、中小企業庁の軽減税率対策補助金があるので活用してほしい。

流通BMSを基盤としたサプライチェーンマネジメントの取り組みについて

企業価値を高める上では、変化への対応が必要。効率アップ、生産性向上などいろいろあるが、経営の中心課題は業務プロセスの改革である。製配販の流れの中では、8つ以上の無駄がある。
発注、在庫、オペレーションの無駄などを情報共有して、相互連携の上、お互いの利益の最大化に向けて努力をしていこうとするものである。業務プロセスの改革では、自社ではロジスティクスの再構築、あるいはビッグデータの活用などがある。一方、製配販では在庫の適正化、返品の削減等の情報をお互いに共有しながら最適化を図っていく必要がある。
大きなポイントとして、ロジスティクス、マーケティング、店舗オペレーションがある。
具体的なマネジメントとしては、商品情報の流れのなかでサプライチェーンマネジメントの想定効果を出し、KPIを製配販で協議した上で決めてPDCAを回している。店舗の在庫適正化を行うための販売予測の精度向上、自動発注の需要予測による精度向上も図る。例えば、シーズン品の売り減らし対応を適切に行い、返品の増大や在庫過多になるのを防ぐ取り組みを考える。あるいは、物流センターの在庫適正化においては、センターの稼働率の適正化、リードタイムの短縮などを取り上げて改善を図っている。返品削減は販売計画の共有や、シーズン商品を見極めて早期に売り切りが必要である。
このような取り組みを行った上で、ビッグデータの活用や、CRMを実施している。製配販のデータを活用した、商品開発、専用商品展開も行っている。
取り組みの結果、利益があがり、効果が見えた。情報の共有を納得して行っていくと、利益率がどんどんあがる。返品率もどんどん減って、今はほとんど返品がない状態になっている。在庫回転率もあがり、キャッシュフローもお互い良くなった。
垂直連携の課題は、トラックドライバーの不足やサプライチェーン上の多重在庫が大きく、物流コストを上昇させている。従来は物流や在庫は戦略領域、競争領域であったが、もっと協力できる分野の拡大を図っていきたい。同じ業界または異業種との在庫や配送の共同化の可能性を探索したい。

オムニチャネルの取り組みについて

まずは、流通BMSの基盤があってのオムニチャネルであることは伝えておきたい。
お客様とのタッチポイント(接点)はどんどん増えている。リアルとECサイトを跨ぐお買い物の利便性を上げ、会員のポイントを一元化して、いつでもどこでもライフサイクルにあった買い物ができるような仕組みを実現する。また、ネットからの商品の取り寄せや取り置きなど、チャネル連携によるサービスの拡大を行っていく。従来は一方通行だったが、色々なチャネルで接点を増やして、購買の可能性を上げていこうとしている。特に現在では、チャネルオペレーションの改革として、在庫情報の一元化、品ぞろえに対するサプライチェーンの考え方の統一、顧客IDによるサービスの提供、データマイニングなどを重点的に取り組んでいる。
今年はマーケティングの高度化と自動化を行い、データと位置情報を獲得しリアル行動ターゲティングを強化する。また、キャンペーンマネジメントの強化、データマイニング技術のさらなる高度化、狭義のマーケティングオートメーションCCCMを構築すること、それらのデータベースとなるデータマネジメントプラットフォーム(DMP)の構築を行うことを進めている。
越境ECと訪日外国人とのone to oneマーケティングをどのように構築するかもポイントである。訪日・在日外国人向けに商品情報多言語化の対応も経済産業省、流通システム開発センター、流通経済研究所とともに進めている。
さらに、調剤サポートプログラムという新たに構築した支援システムとオムニチャネルとを連動させることを考えている。調剤サポートプログラムでは、中小の調剤薬局のオーナーの課題である専門性や業務の効率化、運営ノウハウ等について、我々がノウハウ提供とインフラを活用してもらうことで貢献していく。