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流通BMSセミナー2016 2020年流通大変革
-加速する流通BMS対応の波―

流通BMS協議会では2月14日に東京、23日に大阪で「流通BMSセミナー2016 2020年流通大変革 -加速する流通BMS対応の波-」を開催した。
このセミナーは、2019年度に予定されている軽減税率導入について、およびNTT東西が2020年以降、公衆回線網をIP網に全面移行する予定であることの2点をお伝えし、JCA手順などのレガシー通信手順を使っている流通企業に対して早めに流通BMSに切り替えることを促す目的で開催している。

内容

講演時間 講演タイトル・講演者 配付資料
13:45
(30分)
「INSネット(ISDN)データ通信」終了に向けたIPへの移行について
(921KB)
[東京会場] NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門
ネットワークサービス担当課長
山内 健雅 氏
[大阪会場] NTT西日本 マーケティング部 業務推進部門
ネットワークサービス担当課長
山下 健司 氏
14:15
(20分)
流通BMSの最新動向
(2.04MB)
(一財)流通システム開発センター 流通BMS協議会事務局
ソリューション第2部 新規事業グループ グループ長 主任研究員
坂本 真人
14:45
(45分)
花王グループにおける流通BMS普及推進活動
(1.93MB)
花王グループカスタマーマーケティング(株) カスタマートレードセンター
流通システムコラボG チームリーダー
川口 和海 氏
15:40
(45分)
流通BMSのメリットとトランザクショントレーサビリティへの挑戦
(4.16MB)
(株)カスミ 常務取締役 上席執行役員
ロジスティック本部マネジャー
山本 慎一郎 氏
16:25
(30分)
流通BMSにおける軽減税率対策補助金の活用
(950KB)
独立行政法人中小企業基盤整備機構 経営支援部
消費税軽減税率対策費補助金統括室
参事 前田 和彦氏
副参事 清水 敬広氏


セミナー会場風景 2016.3.14 ベルサール飯田橋駅前

以下、一部講師の講演要旨を紹介する。

「INSネット(ISDN)データ通信」終了に向けたIPへの移行について


[東京会場]NTT東日本
ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当課長
山内 健雅 氏

[大阪会場]NTT西日本
マーケティング部 業務推進部門 ネットワークサービス担当課長
山下 健司 氏

NTTのPSTNマイグレーションについて

 PSTNマイグレーションとは、通信事業者の内部の電話網をIP網へ切り替えていくこと。以前は、NTTの内部で交換機を用いて繋いでいたが、その仕組みをIP網へ切り替えていく。NTTとしては以前から計画しており、2010年には報道発表していた。ネットで検索すれば当時の資料が出ているし、1年ほど前にはNTTの持ち株会社が発表している。
 マイグレーションする理由だが、一つは音声を取り巻く環境が大きく変化していること。2つめは交換機の寿命が2025年頃にくること。今のままだと電話が出来なくなってしまう。世界的にも交換機の需要は小さく、メーカーによる保守が難しくなってきている。また、ユーザの環境としては携帯電話が増えているし、電話よりSNSなどの利用が増えている。ただ、企業は音声固定電話をまだまだ使っている。
 変換のイメージとしては、NTTの内部のコアネットワークはIP化する。顧客のところまでの回線はメタル回線が残る。基本的な考え方として、固定電話はIP網によって責任持って続けていく。

終了するサービス

 しかし、マイグレーションにあたって、続けられないサービスが出てくる。音声通話は問題なく利用できる。キャッチホンやナンバーディスプレイも問題ない。利用者側での工事も不要だ。
 提供終了となるサービスの中に、INSネット ディジタル通信モードがある。2020年頃を予定しているが、後ろ倒しになる可能性もある。
 INSネット ディジタル通信モードの主な用途としては、EDI、POSレジ、CAT端末、警備端末などがある。逆に、EDIなどを利用してもINSネットが使われていないこともあるので、注意が必要だ。
 INSネットには音声通話とデータ通信があるが、今回終了になるのはデータ通信の方だけだ。音声とデータ、どちらを使うかは機器側で選択されるので、契約ではわからない。利用者としては、まずは影響が出るかどうか調べることがスタート。また、回線を契約していても実際にはもう使っていないケースも多々ある。
 データ通信を利用しているかどうか、調べる方法としては、機器が繋がっているかを見るか、請求書を確認する方法がある。

サービス終了に伴う対応について

 EDIなどでINSネット、ディジタル通信モードを利用している方は、インターネットを利用した方式に変更していただきたい。NTTとして今年の秋口くらいには終了時期を公表していくことを考えている。
 また、終了にあたって補完策を考えている。現在、幕張に検証環境を用意している。ただし、補完策は時限措置であり、未来永劫使えるわけではないことをご留意いただきたい。
 NTTからのお願いとしては、25年までにIP網への移行は避けられないので、早めにインターネットベースのシステムへの移行を検討して欲しい。

花王グループにおける流通BMS普及推進活動

花王グループカスタマーマーケティング(株)
カスタマートレードセンター 流通システムコラボG チームリーダー
川口 和海 氏

卸研とは

 卸研とは、卸業のシステム担当者が研究している研究会である。通常ならライバルである企業が共通の課題に一緒に取り組んでいる。今年度は流通BMSの他、軽減税率対応や物流センター庫内の効率化などに取り組んでいる。

花王と標準化

 流通BMSの標準化に関しては、花王は2004年頃の検討段階から参加している。また、金融EDIの実証などにも携わっている。普及活動としては、社内で勉強会を実施したり、取引先幹部を招いたイベントでも流通BMSをアピールしたりしている。

花王の流通BMS導入目標。

 花王グループカスタマーマーケティングとして、導入の目標を立てている。2016年度の目標は導入提案200社、本番稼働100社としていた。結果としては、229社に提案し、37社が導入を完了した。また、113社が2017年度中に導入する予定だ。提案してみると、導入すると言ってくれた企業が多く、流通BMSが浸透していると認識している。
 また、花王としては、小売から要望を受けても、非標準の場合には対応しないと決めている。他のベンダーに迷惑をかけないようにしている。
 2016年度は66社に新規に対応し、計284社と接続することになる。導入ペースは加速しており、自慢ではないが、卸研参加企業の中で花王が一番多かった。
 売上高ベースだと導入済と導入計画中を合わせると85%ほどになる。ただ、社数ベースで数えると半分以上が導入していない。
 花王としての2017年度の目標は、新規対応150社、EOS売り上げ50%を目標としている。

今後の普及推進に向けて

 新規導入の加速はもちろんだが、他の小売や卸相手には導入している企業への横展開や、商材の拡大などを考えていきたい。
 新規導入の拡大のためには、小売業の経営トップ層の理解促進を図ることや、零細小売業対策を進めるため業界全体で連携していくことが必要だと考えている。
 取引拡大のためには、導入のハードルになっている部分を解決するため、標準運用追加やデータ処理料金要請対応などを考えている。

流通BMSの導入メリット

 流通BMS導入の最大のメリットとして、業界標準化に貢献出来る。標準があるのに使わない企業には不信感がある。インフラは標準化して、商品開発や販売活動など、本来の競争領域で勝負できる。
 また、流通BMS導入を機に、業務のBPRに取り組める。同じ手書き伝票を利用するのでも、業務サイクルなどを見直すことで効率化出来るかしれない。

流通BMSの導入時期と零細企業対策

 卸研の統計調査では2社以上と流通BMSをしている企業が増えてきている。もっと増やしたい。軽減税率対応も必要になるので、18年度中に切り替えるのが得策だと考えている。
 零細企業対策としての対応スキームは様々なものが出来ている。ただ、認知拡大が必要だ。その一つとして、昨年度の卸研ではTA伝票から流通BMSへのマッピング例も作成した。
 ただ、非標準が問題になりかねないので、運用の追加を業界団体に提案する予定にしている。オフライン発注に対する出荷梱包メッセージ運用と返品の受領始まり運用を考えている。
 流通BMSは流通インフラの第3次イノベーションと言える。業界全体が進化していくうえで大事なインフラだ。

流通BMSのメリットとトランザクショントレーサビリティへの挑戦

(株)カスミ
常務取締役 上席執行役員 ロジスティック本部マネジャー
山本 慎一郎 氏

ソーシャルシフトの実現

 小売を取り巻く環境が厳しくなっている中で、小売はソーシャルシフト経営を進めていく必要がある。旧来の統制型の組織から、Facebookを利用するなど従業員やお客様等の声をくみ取っていく方向に向かっている。上司は経営ビジョンであり、解決策は顧客の声、となる。

流通BMSとチェーンストア統一伝票

 2004年の流通サプライチェーン全体最適化会議に参加して標準化に参加した。一般的に、消費財の取引はマスタ情報の交換から始まる。流通BMSでも商品マスタのメッセージがある。
 JCA手順やTA伝票の頃には、小売のマスタ不整備が最大のエラー要因だった。取引情報が同期化されていないことが問題となる。手で登録するためミスが発生し、特売などがあると非常に複雑だ。
 統一伝票は契約条件がきちんと守られていることが前提だった。だが、マスタ不備などが発生してエラーが起こる。ターンアラウンド取引は、どこでどう変化したのかの履歴が残るので、トレーサビリティが可能となりメリットが大きい。

トレーサビリティについて

 海外に比べ、日本の小売業は遅れている。ぜいぜい、在庫と仕入原価・販売価格くらいしか判らない。しかし、食品スーパーでは単価の関係上、全商品にRFIDをつけられない。
 仕入については流通BMSであれば、ある程度までは情報を受け取れる。販売は値下げなどがあったとしても、先入れ先出しと考えれば良い。その先は、製造日や製造番号が判ればトレーサビリティに使えると考えている。大きなメーカーなら、どの工場からどこに入荷しているのか判ると思うが、小さいところでは難しいと思う。街のお豆腐屋さんなどでは、そこまで管理されていないだろう。食品の安心安全を考えていくと、ナショナルブランドしか取り扱えなくなってしまうが、食品スーパーとしての価値が薄れてしまう。

トレーサビリティとマスタ情報

 現状、マスタ情報の標準がない。流通BMSに商品マスタのメッセージがあるが、個別の取引で行うものでデータベースではない。
 カスミとしてはeBASEを利用している。取引先のメーカーに導入を依頼しており、製造者、小売業、消費者で情報が共有される仕組みを目指している。

流通BMSの取り組み

 2012年に流通BMSの取り組みを開始したが、物流センターでの伝票処理の関係で止まってしまっていた。しかし、単品レベルの管理をするために、流通BMS導入の取り組みを2016年に再起動した。
 単品入荷情報の精度向上や事務処理の合理化、トレーサビリティに必要な製造ロット番号などの情報格納、計量値付器の対応などを行っている。

デジタル・ビジネス企業への変化

 小売を取り巻く環境が大きく変化している。モバイルの普及により顧客のショッピングスタイルが変わった。利便性がベースとなり、カスタマイズからパーソナライズへ進化し、店舗とデジタルを組み合わせた購買機会を作ることが必要となった。
 このようなデジタルシフトを進めるためには事実を収集することが前提となる。そのためには、情報基盤が必要となり、その上のビジネスデザインの構築が急務だ。
 現状として、人手が足りなくて、陳列時間も発注時間も取れない。自動発注を取り入れたいが、在庫管理が必須となる。その基盤となるのが流通BMSだと考えている。
 人口減などで需要が減っていく中、前年並みに発注すると在庫ばかり増えていく。売れ筋商品を伸ばしていくためにフェースを増やすなどの対応を行うが、それには在庫の管理が必須となる。
 在庫回転日数が1日伸びると、相当の額の在庫が寝てしまうことになる。経営にとってお金は重要要素なので、その解決手段のために流通BMSを絡めたシナリオ建てをして、経営層にアピールしていくことも大切ではないかと思う。

流通BMSにおける軽減税率対策補助金の活用

独立行政法人中小企業基盤整備機構
経営支援部 消費税軽減税率対策費補助金統括室
参事 前田 和彦氏
副参事 清水 敬広氏

 2019年から軽減税率が始まるが、その準備のための補助金である。軽減税率が始まると税率ごとに区分して管理する必要が出てくる。受発注や請求書・領収書の発行など、業務上の様々なプロセスにおいて対応が必要になってくる。
 小売・卸などの流通業では対応したレジの導入や受発注システムの改修が必要になってくる。それらの準備を推進するための補助金である。今日の説明は受発注システムに関する説明である。補助金の対象者としては中小企業になる。
 大企業の方やIT企業の方の中には直接関係しないと思う人もいるかもしれない。しかし、取引先の中にはシステムを改修する必要がある中小企業があるかと思う。軽減税率導入後も円滑に取引が出来るよう、システム改修を促して欲しい。その為に補助金のことをお伝えして欲しい。
 ITベンダーにとっては、システム改修費用・外注費が対象になるので、仕事が発生することになる。また、代理申請という仕組みなので、ITベンダー抜きでは成り立たない。お客様に中小企業がいたら、ぜひ複数税率への準備として対応を促し、情報を提供して貰えればと思う。
 流通BMSの普及について、中小企業はまだまだこれからだと聞いている。JCA手順で動いている企業では対応が難しく、待ったなしの状況かと思う。導入するには資金が最初のハードルとなる。それを補助するための補助金なので、周知していって頂ければと思う。

軽減税率制度の概要

 2019年度に、消費税上昇と同時に軽減税率制度が施行され、10%と8%の税率が混在する。対象は食品表示法に該当する食品で、お酒や外食、医薬品医薬部外品は対象外となる。

必要な準備

 対象商品と対象外商品をわけて管理することが必要となる。その対応のために、中小企業向けに軽減税率対策補助金が出来た。軽減税率制度対応に合わせてEDI標準化やPSTNマイグレーションなど色々なことに対応して貰えればと思う。

補助金のポイント

 中小企業が受発注システム改修に使えるもので、対象経費はベンダーへの外注費用となる。また、申請にはベンダーの協力が必要となる。ただし、ベンダーは中小企業である必要は無い。

補助金対象者と金額

 現在EDIを使っており、軽減税率対象品目を取り扱っている中小企業が対象となる。ただ、EDIを新規導入する場合でも、取引先から要請があった等の事情があれば対象となる。
 補助される金額の上限は発注システムの場合1000万円、受注システムの場合は150万円となる。両方の場合は1000万円。また、補助率としては2/3までとなる。
 改修対象として計上できるのは、商品マスタの交換や受発注の部分などが対象。在庫管理や財務会計に関しては補助金の対象にならない。また、リース契約の場合も対象となる。

補助金のタイプ

 B1型はベンダーが代理申請を行う。事前に指定事業者として登録が必要となり、補助金の対象は人件費やパッケージ代金などの外注費となる。また、平成30年3月末までに完了報告書を出す必要がある。
 B2型は自己導入型であり、小売や卸が自社でパッケージ製品などを買ってきて入れるパターンとなる。